聴覚障害学生の特性と授業の工夫

聴覚障害学生を受け持つときには、通訳者と連携するために様々な調整を行ったり、聴覚障害学生からの要望に対応する必要があります。その際重要なことは、聴覚障害学生のどのような特性がそのような要望につながっているか理解し、また教員も自分でできる範囲で授業の進め方を工夫していくことでしょう。ここでは聴覚障害学生の特性と、授業時に役立つ工夫例を記載しました。ご自身の授業に合わせて取り入れてみてください。

 

  •  同時に複数の作業をさせない、複数の情報を与えない

多くの聴覚障害学生は視覚を中心に情報を得ています。たとえば、先生の口元を見て読唇を活用する、手話通訳やノートテイクを見るといったようにです。しかし、視覚から同時に2つ以上の情報を得ることは困難です。つまり、聞きながらノートを書く、資料を見ながら講義を聞くといったことは非常に難しいのです。

そのため、資料や教科書を読ませながら説明をしない、講義をしながらリアクションペーパー等を書かせないといった配慮が有効です。特に本学ではリアクションペーパーが多くの授業で課されていますが、授業時間の関係でどうしても書かせながら授業を進めざるを得ないときは、授業時は先生の話に集中できるように、のちほど研究室に持参しての提出も可とする等、聴覚障害学生に無理のない方法を提案することも有効です。

 

  • パワーポイント等の資料を紙媒体で配る

大学では、パワーポイント等の資料を提示して説明する場面が多く見受けられます。こうした方法は、一般的にはわかりやすい授業につながるでしょう。しかし、聴覚障害学生にとっては必ずしもそうではないのです。健聴学生は聞きながらノートを取る、先生の話を聞きながらスライドを見て考えるなど、同時に複数の作業が可能です。そのため、視覚情報が増えることはメリットにつながります。しかし、通訳を見ている聴覚障害学生にとっては、ノートを取る、スライドを書き写す、といった作業に困難が伴います。そこで、資料を紙で印刷して配ることが有効になります。このような工夫を教員がすることで、聴覚障害学生は授業中は通訳者を介した音声情報の取得とちょっとしたメモ書きを行い、授業後に資料で詳細を参照するという方法を取ることが可能になります。

 

  •  板書、教科書、パワーポイントなどを読む時間を与える

通訳を利用して授業を受けている聴覚障害学生に情報が届くまでには、通常5-10秒程度のタイムラグがあります。そのため、パワーポイントのスライドが次々に変わったり、板書をしながらの説明が行われると、聴覚障害学生は話についていくことが困難になります。聴覚障害学生に情報が届いた時には、すでにトピックが変わっているからです。また、通訳を通して情報を得てからスライドを見たときにはすでに新しい情報が提示されていて、重要な情報を見失うといったことも起こります。

新たな視覚情報を提示したときや、板書で図などを書いた時には、一拍おいて学生全員に見るだけのための時間を5-10秒程度与えると、こうした問題を回避することができます。その時間があることで、聴覚障害学生はトピックを把握してから通訳者を見る、通訳者が説明を伝えてからスライドを確認するといったことが可能になります。

 

  • 指示語を避ける

資料やスライドを示す際に「ここ」「そこ」などの指示語が用いられますが、音声を頼りに内容を把握する通訳者にとっては何を指しているのか理解することは非常に困難です。特に話者に背を向け、学生に対面して座る手話通訳者にとっては大変です。また、「ここ」「それ」と指示されたものを視覚的に理解できるよう、場合によっては言い換えを行わなければならないため、通常より多くの時間を要したり、情報の正確性に影響が生じる恐れもあります。

こうした場合、具体的な言い方をするようにしてみてください。たとえば、「こっちからむこうに」「ここからここまでの間に」ではなく、「絵の右側から左側に向かって」「1980年から1985年の間」といった言い直しが効果的です。

 

  • 重要なことは繰り返す

聴覚を活用している学生のためには、ゆっくりはっきりと話すことが理想です。実際にそのような要望を受けることは多いでしょう。しかし、意外とそれは難しいものです。普段のご自身の話し方や授業の進行に影響がある場合は、その代わりに重要な点を繰り返すだけでも効果は少なくありません。聴覚障害学生も聞き取れる可能性が高まり、通訳者にとっても通訳しやすくなります。

 

  • 聴覚障害学生の視線や聞き取りやすさを意識する

読唇を併用している学生もいますので、マイクやマスク等で口元を隠さないように注意します。また、聴覚障害学生が話者に正対しているときと、そうではないとき(特に背後から)とでは、聞き取りの程度に相当の差が生じます。

学生に発言させるときはマイクを渡して聴覚障害学生の方に向かって話させる、それが難しいときは学生の回答を教員が復唱するなどの対応が効果的な工夫として考えられます。なお、学生の声は概して小さいことが多く、実際に通訳者からも受講生の発言が聞き取れないというフィードバックが多く寄せられます。教員が復唱することは、この点でも効果的です。

 

  •  議論を整理する

同時多発的に議論が行われると聴覚障害学生は聞き取りが困難になります。また、通訳者にとっても支援が困難になります。議論の進行を積極的に整理することで、このような状況が起こることを防ぎ、全員が等しく参加可能な議論を行っていくことができます。同時に発言しない、教員やリーダーが発言者を指名する、発言前に挙手をして注意をひきつける、発言する前に名前を言って通訳者に配慮する、といったルールを決めると進行がスムーズになります。

 

  • 通訳のタイムラグを意識する

通訳時に発生するタイムラグを意識して下さい。クラス全体や聴覚障害学生に質問したとき、反応がないことが見受けられますが、それはこのタイムラグによることも多いです。そのため、質問をしたら5秒程度反応を待つことが、聴覚障害学生を「おいてけぼり」にしない配慮となります。また、議論が白熱した際には情報の伝達が遅れ、聴覚障害学生が発言の機会を逃すことも多いです。授業者から適宜発言者を指名する、発言がない学生に話を振っていく、などが工夫として考えられます。

 

学生の聞こえやニーズ、好みはそれぞれ違いますので、聴覚障害学生・通訳者と常に相談をしながら進め、その場にあった方法を考えてみてください。そして、新たに工夫したことがありましたら、聴覚障害学生支援プロジェクト室までお寄せください。より良い就学環境を整えていくために、このHP上で共有させていただきます。